リッスントゥザマスクプレイ
『マスクプレイ』とは。
あらかじめ録音された音声台詞に合わせてアクションをおこすこと。と言っても、何のことかさっぱり分からないという方もいますよね。それなら、一度やってみませんか?ということで、昨年の春に「プレ稽古」を実施することにした。応募してきてくれたのは、20〜40代の男女、合わせて約10名。
「さあ、マスクプレイの面白さを届けるぞ!」と意気込んでみたものの、何からやれば良いのやら……迷った末に、公演中だったヘンゼルとグレーテル(通称ヘングレ)のワンシーンを抜粋して、演じていただくことにした。
事前に演じる場面とキャラクターの説明はするけど、行動線や段取りなどの「決まり」は最低限のお伝えに留めた。そういったことよりも、まずは「スピーカーから聴こえてくる台詞を捕まえて、自分の身体から台詞を放出するという体験」をしてもらいたかったから。
「よーい、スタート!」
初めはぎこちなさそうだった動きが、徐々に解放されていく。余計な力が抜けて、硬かった表情が豊かに変化していき、まるで背中に翼が生えたかのように軽やかに空間を舞う……、なんてことには中々ならないのが現実だけど、多少の笑いと程よい緊張を持った時間を過ごすことができたし、皆さんの真剣さが心に残った。
プレ稽古をすると(まだ一度しかやったことがないけど)、稽古をつけるよりも、稽古をつけてもらっていると思うことがよくある。皆さんもプレ稽古に参加して一緒にマスクプレイをして、僕に稽古をつけてくれませんか。次の日は身体中が筋肉痛で動けないかもしれないけど……。
劇団バンブー プレ稽古の内容
【素敵な森】の振りつけで身体のコントロールの確認
ヘンゼル、グレーテルを配役する。
ゆっくり、ていねいに振りを伝える。
目的は早く覚えることではなく、再現力を見極めること。
○パイプセットの空間に馴染むこと
布幕のあつかい、手や足を動かしながら空間の高さ、広さを認識する。
○リアクションをおこすこと
共演者がどこを見ているのか、身体に触れた時、どこにどのくらい力がはいっているのかを感じること。距離を意識しながらアクションをおこすこと。
○身体の使い方
振りを間違っても良いことを伝えること。思い切って体を動かすことをせずに、振りを間違えずにやれたとしても良いことではないことを伝える。
〈マスク芝居において〉
全力で身体を動かすことで思考が鈍くなる(息が上がるため)。
それを補うことができるのは、台詞、段取りを考えなくても言えるように(出来るように)すること。
思考が働かない分、心と身体で演技をすることになるのだから、準備をしておかなければ、その場で軽やかに身体をコントロールすることはできない。
感情という引き出しを開けたら最速で最短距離を移動し、必要な感情をひっぱり出してこなければならない。いちいち、次は何の感情で、その次は......と考えている時間はないのだから。
【魔法にかけて、かけられて】のシーンを演じる
○台本は説明書のようなもの
○音声を聞き、SEの意味を自分自身で解釈する
○いくつか『きっかけ』を見つけて、演技の通過ポイントを定める
〈場面説明〉
森の奥で出会った優しいお婆さんは、兄妹をカマドで焼いて食べてしまおうと企んでいる怖い魔女だった。
兄妹は、魔女の両腕に噛みつき、隙をみて逃げだしたのだった。
魔女「(魔法の杖を持ち)こうなったらこの杖の魔法がどんなものか見せてあげる......ストームス、グロームス、デロームス......!」
《SE》魔法、入る。
カットクロス、閉まる。
魔女「(不気味に笑い)I t‘s show time!」
ヘンゼル(下手)、グレーテル(上手)、袖でスタンバイ 。
♪魔女♪「私は魔女 この森の魔女 魔女の中の魔女なのさ この杖に 一言呪文を唱えれば 全部私の思い通り この世は私の物」
《SE》時を切り裂く、入る。
カットクロス、開く。
兄妹「(魔法で引き戻されて)きゃあー!うわあー!」
魔女「この杖の魔法からは逃げられないんだよ......!ストームス、グロームス、ストームス、グロームス、デロームス......檻よ、カマドよ、出てこい!」
《SE》大きな爆発音。
お菓子の家幕、開く。
くすんだ色合いの牢屋、カマドが現れる。
《SE》ガシャン!で決まる。
ヘンゼル「(訳がわからない様子で)あれ......?」
グレーテル「こわいよー!」
魔女、魔法を使ってヘンゼルを牢屋へ閉じ込めようとする。
魔女「(ヘンゼルに向かって)さあ、おまえはこっちに来るんだよ......!ストームス、グロームス、デロームス......!」
《SE》自由を奪う、入る。
兄妹、魔法によって体の自由を奪われる。
ヘンゼル「あっ!?」
グレーテル「............!?」
《SE》魔法の蔦で腕を縛る×2、入る。
兄妹、魔法の蔦で両腕を縛られてしまう(必死に抵抗はしている)!
魔女「ウォンチュー(want you)!」
ヘンゼル「うわあーーー!?」
魔女「イッヒッヒッヒッヒ......!」
グレーテル「お兄ちゃんー!」
ヘンゼル「何するんだ!やめろ!やめろー!」
魔女「ハッハッハッハ......イッヒッヒッヒ......!」
グレーテル「たすけてー!」
魔女、笑いながら杖を振る(儀式的に)。
魔法によって、兄妹たちの手足が勝手に動き、あっちへ行ったり、こっちへ戻されたりする。
魔女、頃合いをみて扉を開け、ヘンゼルを檻の中へ閉じ込めてしまう。
グレーテルは必死に抵抗するが、魔法の力に抗えない。
ヘンゼル「うわあああー!」
《SE》扉が閉まる、入る。
♪魔女♪「私は魔女 この森の魔女 魔女の中のーーーーー魔女! サンキュー!ベイベーイ!」
《SE》大歓声、入る。
魔女、応える。
ヘンゼル、抗議の意を込めて激しく地団駄を踏む。
ヘンゼル「何するんだ!ここを開けろー!」
魔女「..................本編に続く..................」
2023年 4月 竹村正之